マスト細胞を標的とした治療の可能性
強皮症における疾患修飾薬の治療目標は寿命の延長であるが、全身性硬化症の病型、進行度や臓器合併症の相違など臨床的不均一性によりこれまで臨床試験のエンドポイント設定が困難であった。腎クリーゼに対するACE阻害剤22)、肺高血圧に対するepoprostenol23)やbosentan24)、肺線維症に対するcyclophosphamide25)などは生命予後を延長する可能性が示唆されているが、特異的臓器病変に限られる使用である。
強皮症病態の特徴は、血管障害に基づく血流虚血と過剰な線維化であるが、その病態に重要な役割を果すサイトカインとしてTGF-bとPDGFが知られている。メシル酸イマチニブは、Bcr-Abl、Abl、PDGF受容体とc-Kitに対する低分子チロキンキナーゼ阻害剤であり、慢性骨髄性白血病や消化管間葉腫瘍 (gastrointestinal stromal tumor: GIST)に対する有効な治療薬である。しかし、近年ブレオマイシン誘導モデルマウス26)やTskマウス等の強皮症モデルマウスにおいてイマチニブ投与による皮膚線維化の著明な改善が報告されている27)。実際、ヒト強皮症患者に対してイマチニブ200㎎/日内服にてMRSS、指尖潰瘍、間質性肺炎と肺高血圧の改善を認め28)、強皮症の皮膚線維化だけでなく様々な臓器病変への有効性が期待されている。現在のところ、その作用機序は線維芽細胞増殖や細胞外基質産生を促すc-Ablを介したTGF-bとPDGFの制御によるものとされている。しかし、マスト細胞におけるc-Kitを介したシグナル伝達は分化・増殖・生存に必須のシグナルであることから、Imatinibの新たな作用機序として、c-Kit抑制を介したマスト細胞制御の可能性が考えられる。(図2)
図2. 強皮症病態に対するImatinibの新規作用機序